はじめに
近年、オンラインモールやアプリストアといった「デジタルプラットフォーム」を提供するWebサービス事業者が増加しています。
このようなプラットフォームは、出店者やアプリ提供者など多くの事業者が利用することで、多様な商品・サービスの流通を支えるインフラとしての役割を果たしています。
一方で、プラットフォーム提供者と出店者等との間には、取引条件の情報格差や、突然のルール変更によるトラブルが発生する事例も少なくありません。
たとえば、出店者に対して手数料率の引き上げが一方的に通知されたり、検索結果の表示順位が不明確な基準で決定されたりといったケースです。
こうした状況に対応するため、2020年に「特定デジタルプラットフォームの透明性・公正性向上法(以下、デジタルプラットフォーム透明化法)」が制定・施行されました。
この法律は、大規模なプラットフォーム運営事業者に対し、取引条件の開示や契約内容の変更手続きにおいて一定のルールを課すものです。
ITやWebサービスを提供する中小企業にとっても、今後の取引先や連携先として関係が深くなる可能性があるため、本法の基本的な内容と影響を理解しておくことが重要です。
本記事では、ITに強い行政書士の視点から、透明化法の概要とWeb業界での適用ポイントを解説します。
デジタルプラットフォーム透明化法とは何か?
デジタルプラットフォーム透明化法は、2021年2月1日施行され、同年秋から本格的に運用が始まりました。
正式名称は「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」で、目的はその名の通り、オンライン取引における透明性と公正性を確保することです。
この法律の対象となるのは、一定規模以上の「オンラインモール」や「アプリストア」を提供しているプラットフォーム事業者です。
たとえば、Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングなどのECプラットフォームや、AppleのApp Store、Google Playといったアプリストアが該当します。
特に重要な点は、こうした大規模事業者だけでなく、対象となる基準に達した中堅企業も今後は対象となり得るという点です。
そのため、Web業界に属するスタートアップや中小企業も、制度の概要と影響を把握しておく必要があります。
法律が求める主な義務には、以下のようなものがあります。
- 取引条件の開示
- 契約内容の変更や終了に関する事前通知
- 取引条件の変更に関する履歴や資料の保存
- 経済産業省への年次報告義務
これらの措置を通じて、出店者やアプリ提供者が事前に情報を把握しやすくなり、一方的な不利益を受けるリスクが減ることが期待されています。
Webサービス業界での適用事例とポイント
Webサービス業界では、オンラインモール型のECサイトや、ユーザー投稿型のコンテンツプラットフォーム、アプリ流通を担うマーケットプレイスなど、多種多様なビジネスが存在します。
これらの事業形態の中で、透明化法の適用が想定される事例は数多くあります。
たとえば、自社でオンラインモール型のECプラットフォームを運営し、他の販売事業者に出店スペースを提供している場合、そのモールが「特定デジタルプラットフォーム」に該当する可能性があります。
この場合、出店者との契約書やガイドラインの中で、手数料率の根拠や検索アルゴリズムの仕組み、レビューや表示順位に関するルールなどを明記する必要があります。
また、スマートフォンアプリの開発・配信を支援するプラットフォームを提供している企業が、開発者に対して審査基準や収益配分のルールを定めている場合も同様です。
ルールが不明瞭なままでは、契約トラブルや利用停止などの紛争に発展する可能性が高まります。
透明化法では、「開示は見やすく、理解しやすい形で行うこと」が求められており、単に規約に書いてあるだけでは不十分です。
重要な取引条件は、専用ページでの明示、FAQの設置、変更履歴の明記など、ユーザーの理解を助ける工夫が必要です。
特に、手数料率については、事業者が自由に設定できるものであっても、その基準や考え方を明確に説明しなければなりません。
今後、AIやアルゴリズムの透明性に関するルールも強化される可能性があり、業界全体として「開示と説明責任」が重視される時代へと移行しています。
行政書士が解説:実務で注意すべき法的ポイント
デジタルプラットフォーム透明化法は、抽象的な理念に留まらず、具体的な義務を事業者に課す法律です。
特に、取引条件の開示義務や契約変更時の通知義務などは、実際のビジネスオペレーションに密接に関わってくるため、運用面での注意が必要です。
以下では、Webサービスを提供する事業者が特に気をつけるべき2つのポイントを解説します。
手数料の設定基準の説明義務とは
多くのプラットフォームでは、出店者や開発者に対して売上の一定割合を「手数料」として徴収しています。
その場合は、たとえば「販売価格の30%を手数料として徴収する」といったことを事前に開示しなければなりません。
このような情報をあらかじめ提示しておくことで、出店者や開発者からの不信感を避け、不要なトラブルの予防につながります。
また、変更する場合も十分な期間をもって通知することが望ましいでしょう。
契約解除・変更時の通知義務
もうひとつ、見落とされがちなのが「契約条件の変更や契約終了時の通知義務」です。
たとえば、プラットフォームの方針変更により、一部の出店者の掲載停止やアカウント削除を行う場合、事前通知を怠ると法令違反となる可能性があります。
法令上は、「あらかじめ相当な期間をもって通知を行うこと」が義務付けられています。
この「相当な期間」とは一概には定められていませんが、一般的には1週間から1か月程度が妥当とされています。
特に収益への影響が大きい変更や、契約終了に関わる内容であれば、より慎重な対応が求められます。
通知方法についても、単にメールを送るだけではなく、管理画面への掲示やポップアップ表示など、相手が確実に確認できる手段が推奨されます。
Web事業者が抱える具体的な相談事例
Web業界でプラットフォームを提供する事業者からは、デジタルプラットフォーム透明化法に関する具体的な相談が年々増加しています。
ここでは、行政書士として実際に受けた相談や事例をもとに、どのような問題が起きやすいのかを紹介します。
中小ECサイト運営者からの相談:取引条件を巡るトラブル
ある中小企業が、独自のオンラインモールを運営しており、複数のショップを集めてプラットフォーム展開を行っていました。
しかし、手数料率や掲載順位の決定基準を明文化しておらず、特定の店舗から「不当に不利な扱いを受けているのではないか」とのクレームが寄せられました。
このケースでは、透明化法に基づいて定めるべき開示義務を果たしていなかった可能性があり、急遽、取引条件の見直しとガイドラインの作成を支援しました。
最終的には、利用規約と事業者向けマニュアルを整備し、同様のトラブル再発を防ぐ体制を整えました。
アプリ開発会社のケース:アカウント停止による営業損失
別のケースでは、アプリ開発会社がApp Storeから突然アカウント停止の通知を受け、大きな損失を被ったという相談がありました。
この会社は、収益のほぼすべてをアプリ経由で得ていたため、数日間の販売停止でも深刻な影響がありました。
問題は、App Store側が通知を行っていたものの、英語表記で理解が不十分だったこと、理由の説明が抽象的であったことです。
このケースでは、透明化法の対象ではない海外企業の事例でしたが、国内プラットフォームでも同様の通知トラブルはおこり得ると想定されます。
よくある相談:「何を開示すれば良いのかわからない」
中小のWeb事業者から多いのが、「透明化法に対応したいが、具体的に何をどう開示すればよいのかわからない」という相談です。
特に、契約書や利用規約に法律的な文言を入れることに抵抗があり、現場担当者が判断に迷っているケースが目立ちます。
このような場合には、行政書士が現行の契約書や利用規約を確認し、透明化法上の問題点を指摘したうえで、修正案の提案を行います。
また、社内での管理フロー(変更履歴の保存、通知記録の保管)についても合わせてアドバイスすることで、実務対応まで一貫して支援することが可能です。
トラブルを避けるための法務チェックポイント
デジタルプラットフォーム透明化法に対応するためには、法令そのものを理解するだけでなく、実際のサービス運用に即した体制を整えることが不可欠です。
ここでは、Webサービス事業者が自社の法務対応を見直す際に確認しておくべきチェックポイントを紹介します。
行政書士が勧める事前の利用規約等チェック項目
まず第一に確認すべきは、出店者やアプリ開発者などの利用者と交わしている契約書類やガイドラインの内容です。
以下のような項目が明確になっているか、定期的に見直すことが重要です。
- 手数料の金額
- 商品掲載の順位や表示条件の決定基準
- 契約の終了事由およびその通知期間
- 規約変更時の手続き(告知方法・告知期間など)
- 苦情対応・異議申し立て手続きの明記
これらの要素が不明確であると、利用者との間に誤解や不信が生まれやすく、トラブルの温床となります。
法務専門家によるレビューを受けて、定期的にアップデートする運用が理想です。
また、特に中小企業では、開発会社がテンプレート的に作成した利用規約をそのまま使っているケースが多く見られます。
その場合、透明化法で求められる情報が十分に盛り込まれていない可能性があるため、注意が必要です。
外注先との連携・運用体制の見直し方法
プラットフォーム運営では、契約書だけでなく、実際の運用体制や情報連携の仕組みも大切です。
たとえば、手数料変更や検索アルゴリズムの更新といった重要な変更は、開発部門、カスタマーサポート部門、法務担当者の間で情報共有が必要です。
このような情報が社内で適切に伝達されないまま進められると、出店者やユーザーへの通知が遅れたり、説明が不十分となり、法的リスクが高まります。
また、システム開発を外注している場合は、外注先の契約にも透明化法への対応を盛り込んでおくことが望ましいです。
「機能の仕様変更には〇日前までに報告する」「表示変更時には法務確認を必須とする」など、業務フローに関する取り決めがトラブル防止に役立ちます。
まとめ
デジタルプラットフォーム透明化法は、大企業だけでなく、中小規模のWebサービス運営者にも徐々に影響を及ぼしつつあります。
特定の売上規模や事業形態に達した場合、同法の適用対象となる可能性があるほか、取引先がこの法律に基づいた対応を求めてくる場面も増えています。
また、法令上の義務に直接該当しなくても、取引条件の明確化や契約変更時の誠実な対応は、サービス提供者としての信頼性を高める上で非常に重要です。
情報の不開示や一方的な契約変更は、短期的には運営者側に有利に働くかもしれませんが、長期的には顧客離れや評判低下を招く原因となりかねません。
透明化法を正しく理解し、現行の業務に落とし込んだ形で運用体制を整備することが、プラットフォームビジネスの持続可能性を高める鍵となります。
特に、日々法改正が続くIT・Web領域においては、法律対応を「後回し」にせず、初期段階から組み込むことが肝要です。
行政書士に相談する理由とお問い合わせ情報(IT業界対応)
Webサービスを提供する企業にとって、法令対応は複雑で手間がかかる作業です。
社内に専任の法務部門がない場合、規約や契約の整備、通知文の作成、行政対応などに時間と労力を要します。
ITに強い行政書士は、こうした事業者のサポート役として、実務に即した法務支援を行います。
具体的には、以下のようなサポートが可能です。
- 利用規約・出店契約書・開示ガイドラインの作成・修正
- 透明化法に基づく開示内容の精査と改善提案
- 契約変更時の通知文案作成・手続きアドバイス
- 金融庁・経済産業省などへの報告書作成支援
- 継続的な法務顧問契約による体制整備サポート
「自社が法律に違反していないか不安」といったご相談もお受けいたします。
当事務所では、初回相談は無料で承っておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。