はじめに

ChatGPTなどの生成AIの普及により、文章作成をAIに任せる企業や個人が急増しています。
中でも、Webサービスを立ち上げたばかりのスタートアップや個人開発者が、コスト削減やスピード感を理由に「利用規約をAIで作成する」ケースが目立ちます。

確かに、AIは一般的なテンプレートをもとに、読みやすく整った文書を短時間で生成できます。
しかし、その利用規約は本当に自社サービスに適しているのか法律的に有効なものなのかを慎重に見極めなければ、将来的に大きなリスクを抱える可能性があります。

例えば、利用規約の文言が不明確であったり、事業モデルと内容が食い違っていたりすれば、ユーザーとの間で紛争が発生した際に「契約無効」とされる恐れもあります。
また、消費者契約法や特定商取引法に違反する文言が含まれていると、監督官庁からの指導や是正命令を受けるリスクもあるのです。

本記事では、Webサービス創業初期に見落としがちな「AI生成利用規約の危うさ」と、そもそもなぜ利用規約が重要なのか、どのような法的意味があるのかについて、ITに強い行政書士の視点から解説します。

AIで作った利用規約は本当に使えるのか?

AIは非常に便利なツールですが、万能ではありません
特に、法律文書のように「正確性」や「個別事情への適合性」が問われる文書では、以下のような課題があります。

AIが生成する文章の限界と法的責任

AIが出力する文章は、過去の学習データに基づく推論で作られており、最新の法改正や国ごとの法制度の違いに対応しきれていない場合があります。
また、責任の所在が不明確であるため、仮にその規約に不備があって損害が発生した場合でも、AI開発元は責任を取りません。
つまり、最終的に責任を負うのは、その利用規約を用いたサービス提供者自身なのです。

サービス内容と規約がズレることで起きるリスク

例えば、サブスクリプション型の課金サービスを提供しているのに、利用規約に解約条項がなかったとします。
この場合、ユーザーが解約方法を誤認したり、不当な継続課金だと主張する可能性があります。
あるいは、ユーザー投稿型のコンテンツサービスで著作権の取り扱いについて触れていなければ、著作権侵害のトラブルが発生しても自社を守る根拠がありません。

AIが出力した利用規約は、一般的で表面的な内容になりがちであり、自社サービスにカスタマイズされていないことが最大のリスクです。

利用規約が必要な理由と法的な位置づけ

そもそも、なぜWebサービスに利用規約が必要なのでしょうか?
それは、利用規約がサービス提供者とユーザーとの「契約書」の役割を果たすからです。

利用規約は「契約書」である

利用規約は単なるお知らせ文ではなく、ユーザーがサービスを利用する際に同意することで効力を持つ「約款(やっかん)」です。
これは民法第548条の2により、「あらかじめ定められた条項に基づき締結される契約」として法的に認められています。

つまり、ユーザーが登録や利用開始時に「同意する」ボタンを押した時点で、契約が成立しているとみなされ、
そこに記載された条件は、サービス提供者・ユーザー双方に対して法的拘束力を持ちます。

このため、利用規約の内容が曖昧だったり、サービス内容と一致していない場合、紛争時に「契約内容として認められない」可能性が出てくるのです。

紛争発生時に有効な主張ができる条件とは

利用規約を使って事業者側が自らを守るには、以下の要件が重要になります。

  • 利用規約が「事前に提示」されていること
  • 利用者が「内容を認識し、同意した」形がとられていること(例:チェックボックス、同意ボタン)
  • 規約の内容が法令に違反せず、「一方的に不利な条項」が含まれていないこと

特に「一方的な免責条項」や「消費者の権利を不当に制限する文言」は、消費者契約法や特定商取引法によって無効とされる可能性があります。
つまり、いくら契約書のように見えても、適法かつ妥当な内容でなければ効力を持たないということです。

また、プライバシーポリシーや特商法表記と利用規約の間で矛盾が生じると、ユーザーからの信頼を損ねるだけでなく、違法状態とみなされる可能性もあります。

Webサービス業界でありがちなAI生成利用規約の問題例

AIを用いて生成された利用規約は、汎用的かつ形式的な内容になりがちです。
特にWebサービス業界では、提供する機能やビジネスモデルが多様であるため、それに合わせて規約をカスタマイズしないと法的に不備が生じやすくなります。
以下に、実際によくあるAI生成利用規約の問題例をいくつか紹介します。

クラウドサービスでの免責不備

クラウドストレージやSaaS型のWebツールを提供しているにもかかわらず、
「サービスの中断・障害が生じた際の免責条項が不十分」であったり、
「データ損失に関する事業者の責任範囲が不明確」な規約が多く見られます。

AIで作成した規約の中には、「当社は一切責任を負いません」といった一文だけで済ませているものもありますが、これは消費者契約法に照らして無効と判断される可能性が高い条項です。

事業者が法的リスクを抑えるためには、以下のような合理的かつ限定的な免責の記述が求められます。

「当社は、天災地変、システム障害その他やむを得ない事情によるサービス停止・中断について、
利用者に生じた間接的・特別・派生的損害について一切の責任を負いません。」

サブスク型サービスでの解約条項の欠落

月額制や定額課金型のWebサービスを提供しているにもかかわらず、
「解約の方法や締日、返金の有無についての明記がない」規約は非常に多く見受けられます。

このような不備は、ユーザーが解約タイミングを誤認し、自動継続されたことに対するクレームや返金請求の原因となります。
特にクレジットカード決済を用いているサービスでは、「○日前までにマイページから手続きが必要」など、具体的な記載が重要です。

さらに、途中解約時の返金対応についても明示しないと、「消費者に不利な取引」として行政指導の対象になるリスクがあります。

個人情報取扱いがプライバシーポリシーと矛盾

AIが生成する利用規約とプライバシーポリシーが別々に作られた場合、
「利用目的」「第三者提供の有無」「保管期間」などの記載に齟齬が出ることがあります。

たとえば、利用規約では「取得した個人情報はマーケティングにも利用します」と記載しているのに、
プライバシーポリシーには「取得目的はサービス提供のためのみ」と書かれていた場合、
ユーザーからの指摘により、説明義務違反や違法取得と判断されるリスクがあります。

このような矛盾は、AIの限界であり、サービス設計や個人情報フローを正確に把握した上で規約全体を整合的に設計する必要があります。

行政書士が解説:自社サービスに合った利用規約の作り方

ここまで見てきたように、AIが生成した利用規約は「形にはなっていても中身が伴っていない」ことが多くあります。
では、どうすれば法的に有効で、かつ自社サービスにマッチした利用規約を作ることができるのでしょうか?
IT・法務に強い行政書士の視点から、その方法とポイントを解説します。

サービス内容・収益モデル・ユーザー属性に応じた設計

まず大前提として、利用規約はサービスごとに個別に設計すべきです。
同じ「SNSアプリ」であっても、以下のように要素は大きく異なります。

  • 収益モデル(広告/課金/マッチング手数料)
  • 対象ユーザー(個人/法人/未成年を含むか)
  • 投稿コンテンツの種類(画像/動画/文章など)
  • ユーザー間の取引があるか(マッチング型サービス)

これらの違いに応じて、必要な条項も異なります。
たとえばマッチングサービスであれば、「ユーザー間の契約関係に関する責任範囲」「通報機能の有無」「運営側の仲介行為の禁止」などを定める必要があります。

行政書士は、こうした実態をヒアリングしながら、機能・法制度の両面から最適な条文設計を行います。

規約とプライバシーポリシーの整合性確保

前述のように、利用規約とプライバシーポリシーはセットで整備することが望ましいです。
そのためには、ユーザー情報の「取得」「利用」「保存」「第三者提供」の各フェーズを明確に把握したうえで、規約間で一貫性を持たせる必要があります。

例えば、取得したメールアドレスをサービス内通知以外にも活用する予定がある場合、両方の規約にその旨を記載しておく必要があります。

将来的な法改正や機能追加への柔軟な対応構造

サービスはローンチ後も進化します。
新しい機能が加わったり、法改正により対応が必要になることもあります。
このとき、初期の利用規約が拡張性のある構造で作られていないと、都度書き直しや法的矛盾が発生することになります。

行政書士が関与する場合、変更条項の設計、規約改定時の通知義務のルールなども含め、運用に耐えうる設計を行います。

自動生成ツールの上手な使い方と限界の見極め

ChatGPTなどのAIを使った文章生成ツールは、たしかに便利です。
しかし、前述のように法律文書として完全に頼るには限界があるというのが現実です。
そこで重要になるのが、「AIをどう使い、どこで専門家にバトンを渡すか」という視点です。

たたき台としての活用は有効

AIの強みは、スピーディーに「それっぽいもの」を作ることです。
ゼロから規約を考えると時間がかかりますが、AIで骨子を出せば、「たたき台」として十分使えます。
例えば以下のような場面での活用が有効です。

  • 契約書や利用規約の構成要素を確認したいとき
  • 初期構想段階で、どんなリスクがあるかをざっくり把握したいとき
  • チーム内で方向性を共有するための雛形として

ただし、そのままユーザーに提示するのは避けるべきです。
サービス内容や日本の法制度に適合していない内容を含んでいることも多く、「契約」としては無効とされる恐れがあります。

必ず専門家のレビューを受けるべき理由

利用規約は、「契約書の一種」です。
つまり、仮にトラブルが起きたとき、事業者がユーザーに対して説明責任を果たすための法的根拠になります。

そのためには、以下のような点で専門家のチェックが欠かせません。

  • 自社サービスのモデルに即した記載になっているか
  • 消費者契約法や電気通信事業法などの最新法改正に対応しているか
  • 他の法定表示(特商法表記・プライバシーポリシー)と整合しているか
  • 改定条項や準拠法・合意管轄の記載に漏れがないか

専門家にレビューを依頼することで、リスクの洗い出しができるだけでなく、「守れるルールを自分で作る」という大きなメリットがあります。

まとめ

Webサービスを立ち上げる際、最初に悩む法務の一つが「利用規約の整備」です。
AIを使えば一定の雛形は作れるかもしれませんが、そのまま使うのは非常にリスキーです。

  • 自社サービスに合っていない
  • 法的要件を満たしていない
  • 記載漏れや整合性の欠如がある
  • 紛争時に役に立たない可能性がある

特に2020年代に入り、個人情報保護法、消費者契約法、電気通信事業法、プラットフォーム透明化法など、Webサービスを取り巻く法制度は急速に変化しています。
創業初期から正しく利用規約を整備しておくことは、信頼されるサービス運営・リスク回避・成長基盤の構築すべてに直結します。

AIは便利なツールですが、法務領域では「たたき台」や「参考資料」として活用し、最終的には専門家の手を借りて実務・法令に適合した規約へとブラッシュアップすることが必要不可欠です。

IT行政書士に相談するメリットとお問い合わせ情報

利用規約やプライバシーポリシーの整備に不安があるWebサービス事業者は、IT分野に強い行政書士に相談することで、以下のようなサポートを受けることが可能です。

主なサポート内容

  • 自社サービスの実態に即した利用規約・プライバシーポリシーの作成
  • サブスクリプションモデル・ユーザー投稿型サービスに対応した条項設計
  • マッチングプラットフォームにおける運営リスク対策(責任範囲・免責)
  • 特定商取引法・電気通信事業法などの関係法令への適合確認
  • 定期的な見直し・改定時のサポート体制構築(顧問契約対応も可)

特に、以下のような方には早めの相談をおすすめします。

  • 起業準備中のスタートアップ経営者
  • 利用規約はあるが、5年以上改定していない
  • 海外のテンプレートやAI生成で済ませてしまっている
  • 新機能追加や新たなマネタイズ施策に合わせて規約を変更したい

当事務所では、初回相談は無料で承っており、Web業界・IT分野に特化した契約書・規約整備の実績も豊富です。
ぜひ、お気軽にご相談ください。