はじめに

近年、ブロックチェーン技術を活用したWebサービスが急増しています。
NFT(非代替性トークン)、暗号資産(仮想通貨)、スマートコントラクト、DAO(自律分散型組織)など、中央管理者を介さずに価値の移転や契約の履行が行われる新たな仕組みは、Webサービスのあり方そのものを変えつつあります。

一方で、法制度の整備が追いついていない分野でもあり、「何が合法で、何が違法か」「トラブルが起きたときに誰が責任を取るのか」が不明確なまま、サービス運用が進められているケースも少なくありません。

とりわけ、利用規約の整備が不十分なままサービスを公開しているWeb事業者は多く、ユーザーとのトラブルや法的責任の所在が曖昧になりがちです。
ブロックチェーンサービスの運営者は、単なる免責文言だけでは不十分であり、トークンやNFTなど独自の要素を踏まえた利用規約の設計が必要になります。

本記事では、IT分野に精通した行政書士の立場から、ブロックチェーンを活用するWebサービスにおける利用規約作成時の注意点を具体的に5つに分けて解説します。
これからWeb3領域に進出しようとしている事業者、すでにサービスを運営中で規約の見直しを検討している方にとって、実務に直結する内容となっています。

ブロックチェーン技術を使うサービスの法的リスクとは

中央管理者不在の仕組みと契約責任の不明確さ

ブロックチェーン技術の特徴は、「非中央集権性(Decentralization)」です。
これは、サービスの運営やデータの管理が特定の企業や管理者によってではなく、分散されたノードによって行われることを意味します。

この構造自体は高い信頼性と透明性を生みますが、法的には「誰がサービス提供者なのか」が不明確になるリスクも孕んでいます。
たとえば、あるNFTマーケットプレイスで詐欺的な出品が行われた場合、プラットフォームはどこまで責任を負うのか?
スマートコントラクトで自動執行された内容にミスがあった場合、それを誰が補償するのか?

こうした疑問に答える法制度はまだ整っておらず、契約のベースとなる利用規約で明確にルールを示しておくことが重要です。

NFT・トークンなどの財産的価値に関する法的論点

NFTや独自トークンを発行するサービスでは、これらのデジタル資産が「資金決済法」「金融商品取引法」「著作権法」など、複数の法律にまたがる可能性があります。

たとえば、

  • 独自トークンが「暗号資産」と認定されると、資金決済法の登録義務が発生
  • NFTの転売利益が一定の条件を満たすと、金融商品の取り扱いとみなされるケースも
  • NFTに添付されたデジタルアートの著作権をめぐって、出品者と購入者との間で争いが発生する例も多数

このように、ブロックチェーンサービスは一見技術的な話に見えて、実は法的リスクの宝庫です。
法規制の対象とならない範囲でどのようなサービス構成にするか、それをどう規約で示すかが、事業成功のカギとなります。

利用規約作成時の5つの注意点

1. トークンの法的位置付けを明確にする

自社で発行するトークンが、何を目的とし、どのように利用されるのかを明記する必要があります。
たとえば、「コミュニティ内で使用できるポイント」として限定的な役割を持たせるのか、「外部マーケットで交換可能な資産」として機能させるのかでは、法的な取り扱いが異なります。

トークンに関する記載例:

「本サービスで発行されるトークンは、暗号資産に該当するものではなく、あくまでサービス内での利用に限定されるものとします。」

このような文言により、ユーザーの誤解を防ぎ、法的責任の所在も明確にできます。

2. スマートコントラクトとの関係性を説明する

スマートコントラクトとは、ブロックチェーン上で自動的に実行される契約のことですが、法律上の「契約」とは異なる扱いです。
利用規約では、「スマートコントラクトによる処理は、当社の保証の対象外となる場合がある」旨など、自動処理と運営側の責任範囲の区別を明記する必要があります。

また、「スマートコントラクトがエラーを起こした場合の補償有無」や、「ユーザーによる誤操作」の責任帰属についても触れておくべきです。

3. 免責事項とユーザー責任の範囲を限定する

技術的な不具合や第三者による不正アクセスなど、不可抗力により損害が発生する可能性があるため、免責事項はブロックチェーンサービスにおいて非常に重要な要素です。

特に注意すべきなのは以下のようなケースです。

  • トークンの消失・盗難
  • NFTの無断複製や二次流通での著作権侵害
  • ブロックチェーンネットワークの障害

これらに関して、「当社は一切責任を負いません」という文言を入れるだけでは不十分で、どこまでが「当社の責任範囲」で、どこからが「ユーザーの自己責任」なのかを、丁寧に区分して記載することが求められます。

4. 二次流通・転売への対応方針を明記する

NFTやデジタルアセットは、ユーザーによる二次流通(転売)が前提となるケースも多いですが、その際の対応方針を規約に明記しておかないと、後々トラブルに発展する可能性があります。

たとえば、

  • 転売時にロイヤリティを自動徴収する仕組みがある場合、その割合と仕組み
  • 禁止している転売先や外部マーケットの指定
  • 二次流通による損害発生時の免責事項

こうした内容を事前に規約に含めておくことで、予期せぬトラブルや風評被害のリスクを軽減できます。

5. プラットフォームとしての管理範囲を定義する

NFTマーケットプレイスなどの場合、自社は「仲介者」であり、「コンテンツの提供者」ではないことを明確にしておくことも重要です。
たとえば、ユーザーが不正なコンテンツを出品した場合、それを自社の責任とみなされないようにするためです。

この点に関しては、次のような条項が考えられます。

「当社は、ユーザーがアップロード・出品するコンテンツについて、その正確性・合法性・著作権の有無を保証するものではありません。」

これにより、サービス提供者としてのリスクを限定しながら、ユーザー間の取引を適切に管理する枠組みを整えることができます。

行政書士が見る実務上の落とし穴

ブロックチェーン技術を用いたサービスは、先進的で革新的である一方で、従来の法的枠組みにうまく収まらない点が多く存在します。
そのため、利用規約の整備にあたっても、通常のWebサービスとは異なる「落とし穴」がいくつもあります。

まずよくあるのが、サービス運営者自身が自社の法的立ち位置を曖昧にしているケースです。
ブロックチェーンを活用したサービスでは、「非中央集権」「分散管理」を前提としているため、自社がどのような立場でサービスを提供しているのかがあいまいになりがちです。
しかし、実務上は、「契約主体としての責任」「トークン発行者としての立場」「技術提供者と管理者の違い」を明確にしなければ、トラブルが発生した際にすべての責任を問われるリスクがあります。

次に、NFTやトークンの二次利用や著作権問題への対応が甘い点もよく見受けられます。
たとえば、NFTに紐づいたデジタルアートの著作権が誰に帰属するのか、利用可能な範囲がどこまでかを規約上にきちんと示していないと、購入者との間で解釈が食い違い、知財トラブルにつながるリスクが高まります。
最近では、実際にNFTの販売後に著作者からクレームが入る事例も増えています。

さらに、海外ユーザーへの対応に関する不備も見逃せません。
Web3領域ではサービスがグローバル展開される前提のものが多く、EU圏やアメリカのユーザーも参加する可能性があります。
この場合、GDPR(EU一般データ保護規則)や米国の消費者保護法など、各国の規制への配慮が必要ですが、日本国内向けの利用規約しか用意していないケースも多く見受けられます。
こうした点は、サービス提供者が意図しなくても、“違反”とみなされるおそれがあるため要注意です。

なお、GDPRについてはこちらを参照ください。

まとめと結論(ブロックチェーン×Webサービス事業者向け)

ブロックチェーン技術は、Webサービスの在り方を根本から変える可能性を秘めています。
しかしその革新性ゆえに、既存の法律との摩擦や、法整備の遅れによる不確実性が存在するのも事実です。

そのため、ブロックチェーンを活用したWebサービスを展開する際には、法的リスクを最小限に抑えるための準備が不可欠です。
特に、利用規約はユーザーとのトラブルを未然に防ぎ、サービス運営者としての責任範囲を明確にするための重要な契約文書です。

今回紹介した5つの注意点(トークンの位置付け、スマートコントラクトの扱い、免責の設計、二次流通の方針、管理範囲の明示)は、Web3サービスを法的に支える基盤となるものです。
テンプレートで済ませるのではなく、自社のサービス特性を踏まえてカスタマイズされた利用規約を整備することが、これからのWeb3時代に求められる法務対応のスタンダードと言えるでしょう。

行政書士に相談する理由とお問い合わせ情報(Web3支援対応)

Web3やブロックチェーン関連サービスに対応した利用規約や規制対応は、通常のWebサービス以上に高度な法的知見と実務理解が求められます。
ITに不慣れな士業に依頼すると、サービス内容を理解されず、実態にそぐわない規約になってしまうケースもあります。

その点、IT・Web分野に強い坂本倫朗行政書士事務所であれば、以下のような支援が可能です。

  • トークンやNFTを含むWeb3サービスの構造に即した利用規約の作成
  • スマートコントラクトとの連携に関する免責・責任設計
  • 海外ユーザー向けの規約(英語対応含む)の整備
  • 利用規約とプライバシーポリシー、表示義務文書との整合性チェック
  • 実際のトラブル事例を踏まえた予防設計

新規サービス立ち上げ時だけでなく、既存サービスの法的整備や見直しにも対応しています。
リスクを“知ってから備える”のではなく、“備えたから安心できる”状態にすることがプロの役割です。

ご相談は全国対応可能で、オンラインでのヒアリングも実施しております。
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